東大生の読書ライフ

東大生の読書ライフ

東大生による書評ブログ。

男女平等を鋭く描いた一冊

農ガール、農ライフ

「農ガール 農ライフ」

垣谷美雨、2016年、祥伝社

 

派遣切りにあい、心機一転農業にチャレンジする女性の物語。

この本を読んで初めて知ったことですが、新規就農といっても実は祖母や両親が農家である場合がほとんどなようですね。

やはり縁故のない人間は受け入れられにくく、農地すら借りるのが難しいようです。

 

男女平等とは一体

いっそ男女平等などという観念がない方が楽だった。そうであれば、実家が農家の男性に対して、嫉妬や劣等感などが絡み合った感情は持たなかったはずだ。結婚することを目的としているのだから、家付き農地付きの家にと告げると、本来は喜ぶべきなのだ。自分のように、男性に対しても同列にライバル意識を燃やしてしまう女にとって、この世はなんと生きにくいのだろう。(p176) 

 

 同列にライバル意識を燃やしたところで、日本社会はまだまだ男性中心の部分があり、圧倒的に男性が有利になっている場合があります。

体力的にも、やはり男性と全く同じようにはいきませんよね。

 

もちろん、女性ならではの仕事というのもありますから、得意なことを活かしていけば良いのですが、なんでも同じにすること=男女平等と考えてしまうと辛くなってしまうのかもしれません。

 

家族というセーフティネット

私はさ、昔から打算的なことは大嫌いだったし、親がバックについてるヤツなんか、嫉妬心もあって馬鹿にしてきたよ。でもさ、いざ自分もその甘ちゃん家族の一員になってみると、他人には批判されたくないと思うようになった。自分に都合のいいことばかり言うようでナンだけど、生き方は人それぞれだし、頑張れば頑張るほど報われるっていう世の中じゃないからね。家族が支えあってもいいんじゃないかな。空に、何も私が百パーセント向こうに頼っているわけじゃないしね。(p252)

 

主人公の久美子は身寄りがなく、自分の貯金だけを頼りに生きています。

私は家族というしがらみのない、そういう生き方を自由でいいなと思ってもいるのですが、その反面、不安も伴います。

 

実際、久美子は派遣切りに遭い、ある事情から住むところもなくなって貧困状態になります。

先行きが不安な中、誰かと支えあえたら精神的にも経済的にも助かることでしょう。

 

真の「自立」とは

 

この小説にはたくさんの女性が出てきますが、みんな生き方はそれぞれ。

でも、みんな生きることに対して本当にシビアです。

これは、女性ならではなのではないでしょうか。

 

結婚して家庭に入ることも、生存戦略の一つだと思います。

 

この本にはバリバリのキャリアウーマンが出てくるのですが、彼女は家庭に入ったら人生終わりのような見方をしています。

 

私も東大出てまで家庭に入ったら終わりだ、というような極端な見方をしていた時期もありました。

 

しかし、電通の過労死事件があって、自分の力で一生懸命働いて自立した気になっていても、それは結局企業に仕えているだけであって、それで命を奪われてしまったら元も子もない、自分の身は自分で守らなければ、と他人事でなく思うようになりました。

 

私は「自立」という言葉が好きです。

特に女性は、働きたければどんどん外で仕事をして自立すべきだし、自分もそうなりたいなぁと思っていました。

 

しかし、最近思うのは「自立」とは単に経済的な意味だけでなく、精神的なものも含まれる、複雑なものではないか、ということ。

 

たとえ自分で稼いだお金はあっても、誰かに従属しているのならそれは真の自立ではないと思うのです。

 

世間知らずのくせに随分と偉そうですみません。

社会で生きていくのは厳しいと思います。

人に頭を下げることを嫌がっていては、生きていけません。

しかし、人に頭を下げることと、心が従属してしまうことは別だと思うのです。

 

本当の意味で自分の人格を失わないこと。それが真の自立だと思います。

 

家庭に入って家事労働をすることも一つの仕事だと思います。

社会で求められる、人の役に立つ立派な仕事だと思うし、自立しているとも思います。

 

男女平等の意味を経済的な意味だけと捉えると、どうしても矛盾が生じて辛いものがあると思います。