東大生の読書ライフ

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東大生による書評ブログ。

格差社会への処方箋を、歴史の見地から

格差と序列の日本史 (新潮新書)
山本 博文
新潮社
売り上げランキング: 403,243
「格差」に焦点を当てて日本史をまとめ直した一冊。
ちょっと難しいところもありますが、日本史の知識が中学生レベルでも頑張れば読めると思います。
 
古代から現代に至るまで、時代区分ごとにかなり詳しく書いてありました。
詳しすぎてブログに載せると話をまとめることができなくなりそうなので、現代社会に通じる一部分だけを抜粋しました。

「格差」の定義 

「人の地位や役職につけられた序列や上下関係」を「序列」、そして「序列の固定化によってできた、にわかには越えがたい一線」を「格差」と呼びたいと思います。(p17) 

 格差の本質は差があることそのものではなく、差が固定化したものであるとしています。

確かに、全く差がなくて均質というのもちょっとありえないし、それはそれで弊害が大きい気がしますね。差はあっても、努力次第で乗り越えられるものならば、そこまで格差意識や差別にも繋がらないのでは。

 

安定が格差をつくり、混乱が格差を壊す

(前略)良くも悪くも社会や国家は「安定」によって序列を固定化させ、格差を生み出しがちです。逆に「混乱」が良くも悪くも序列を崩し、格差を解消することが多いことも確かです。これは、社会秩序の変質が格差にも表れるということで、つまり時代の「画期」をもたらすものでもあるということです。(p27)

安定した社会に格差はいつもあった、というのが歴史の教えるところのようです。

もちろん、それが良いことかどうかは別の問題ですが。

格差は是正していくべきだが、社会の混乱は避けたいというのは、難しい問題なのかもしれませんね。

 

格差社会」はなぜ生じるか

(前略)日本には、「一億総中流」と称されるような平等社会が実現していたと見ることができます。このころの状況があたりまえのように捉えられ、現在の「格差社会」論の前提になっていることが多いようです。(p242)

歴史を振り返った上で現代の日本社会を見ると、身分や家柄のように生まれながらにして決定づけられるような格差の面では、史上最高に平等な社会が実現していると言います。
平等な状態がある(あった)からこそ、格差が叫ばれるようになったというのは逆説的で面白いです。
 
筆者は、格差社会への処方箋として教育の重要性を訴えています。
誰でも受けられる、質の良い公教育を提供し、社会的地位や経済状況が固定化しないようにすることが重要だと説いています。
 
東京大学は国立大学で、授業料や入学金の免除制度もあり、制度上は誰にでもチャンスがあります。
しかし実際は東京の名門私立一貫校の卒業生が大半で、家計収入の平均値も他大学と比較してかなり高いそうです。
格差と関係あるかわかりませんが男女比も8:2と異常です。
 
私自身はどちらかというと貧しい家の出身で、高校まで全部公立、高校卒業まで学習塾に通ったこともありませんでした。
つまり、公教育が素晴らしかったということなのですが、誰もが教育のチャンスを最大限に活用できる環境があるかどうかは、考えていく必要があると思います。