東大生の読書ライフ

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東大生による書評ブログ。

漢詩の世界にようこそ

 

石川忠久 漢詩の講義

石川忠久 漢詩の講義

 

最近漢詩にはまっています。

きっかけは何気なく始めたペン習字の教材に漢詩がたくさん載っていたこと。

そのうち意味を考えるようになって、その奥深さや非日常的な世界観が面白いと思うようになりました。

現実逃避にはもってこいです!笑

 

今回は、この本で解説されていた中で一番印象に残った漢詩を紹介したいと思います。

 

陶淵明 飲酒 其の五
 結廬在人境
 而無車馬喧
 問君何能爾
 心遠地自偏
 採菊東籬下
 悠然見南山
 山気日夕佳
 飛鳥相與還
 此中有真意
 欲辨已忘言

 廬を結んで人境に在り
 而も車馬の喧しき無し
 君に問う何ぞ能く爾ると
 心遠く地自から偏なり
 菊を採る東籬の下
 悠然として南山を見る
 山気日夕に佳し
 飛鳥相與に還る
 此の中に真意有り
 辨ぜんと欲して已に言を忘る

 人里に廬を構えているが、役人どもの車馬の音に煩わされることはない。「どうしてそんなことがありうるのだ」とお尋ねか。なあに心が世俗から遠く離れているため、ここも自然と僻地の地に変わってしまうのだ。
 東側の垣根のもとに咲いている菊の花を手折りつつ、ゆったりした気持ちで、ふと頭をもたげると、南方はるかに廬山のゆったりした姿が目に入る。山のたたずまいは夕方が特別すばらしく、鳥たちが連れ立って山のねぐらに帰っていく。この自然の中にこそ、人間のありうべき真の姿があるように思われる。しかし、それを説明しようとしたとたん、言葉などもう忘れてしまった。(岩波文庫 陶淵明全集 松枝茂夫・和田武司訳注)

陶淵明 飲酒 その五(結廬在人境) | 河合克彦のホームページ

 

人生で最も大切なこととは

 人間の一つの大きな願望は、死なないで、いつまでもいつまでも長生きすることです。これが、「菊をとる 東籬の下、悠然として南山を見る」ということの裏にある。もう一つは、「山気 日夕に佳く、飛鳥相い与に還る」。山気というのは山霞のことでありますが、その山霞が夕暮れにたなびいている。そこに連れだってカラスが帰っていく。これは何かというと、安息、安らぎだと思います。山のねぐらへ帰って、一日の仕事が終わって安らぐんです。(p5)

人生で一番大切なことはなんでしょうか。

難しい問いだし、もちろん答えは十人十色だと思います。

詩人・陶淵明によると、それは長寿と安息だと言います。

現代人の心にも響く普遍的な価値観が約1600年前にはもう考えられていた、というのはすごいことだと思います。

 

背景知識がなくてもわかりやすい一冊

私は中国の地理や歴史には疎いですが、説明がわかりやすいし、石川先生の語り口が面白くて、漢詩の世界に没入してしまいます。

入門書として良いと思いました!