日本社会は生きづらい?寛大さが鍵
小国士朗(2017年、あさ出版)
電車の改札で、Suicaのタッチがうまくできなくて行列を詰まらせてしまう人、いますよね。
急いでいたら、ちょっとイラっとしてしまうかも。
でも、もし自分が逆の立場だったら…
Suicaのタッチが甘くて、ラッシュ時の改札を渋滞させてしまった。
後ろのサラリーマンに舌打ちされた。
逆ギレしちゃうかもしれませんが、申し訳なくて消えたい気持ちになるのではないでしょうか。
これ、認知症と診断された人の心理状態と全く同じです。
認知症だとわかった患者さんは、周りの人に申し訳ない、消えたいという気持ちになる人が多いそうです。
できることなら他人のミスをいちいち咎めるよりは、しょうがないよ、まぁいいかと言える人間でありたい。
でもそんなの綺麗事かもしれませんね。
どうやったら、どんな時も他人に優しくなれるのか。
今回ご紹介する本には、そのヒントが詰まっています。
分野:福祉
難易度:★☆☆☆☆
コメント:
ほんわかしたイラストで、ほっこり和みます。「寛大さ」が大きなテーマになっていて、考えさせられます。
筆者情報:
1979年生まれ、東北大学卒業後、2003年に某テレビ局に入局。2013年に心室頻拍を発症。テレビ番組は作れなくなってしまったが、「テレビ局の持っている価値をしゃぶり尽くして、社会に還元する」というミッションのもと、数々のプロジェクトを立ち上げる。
まとめ:
小国さんが、認知症の方が自分らしく働けて、間違いがあってもそれを許せるような場を作りたいと「注文を間違える料理店」を期間限定でオープン。
企画は大成功し、たくさんのお客さんが訪れ、国内外のメディアから取り上げられました。
現在も、継続的な取り組みになっているようです。
印象に残った話:
認知症の奥さんがレストランで間違えながらピアノの演奏をするのを、健常者の夫が何度も何度も教えてあげながら演奏を完成させる場面。美しい夫婦だと思いました。
感想:
この本は友人に勧められて読みましたが、彼は「寛大であることは大切だけど、その前に自分に余裕がなければ寛大にはなれない」と言っていました。
その通りだと思います。
腹ペコの状態でその辺のレストランに入り、間違って注文と全然違うものが出てきたら誰が笑って許せるでしょう。
実際、「注文を間違える料理店」には「余裕」を生み出すための様々な工夫が凝らされており、寛大になれる場の雰囲気作りが成功していました。
生きていく上で、自分のことだけで精一杯。
他の人のことなんて、気にかけている余裕ない。
正直、こういう時もあります。
しかし、誰かが「幸せだから笑うのではない、笑うから幸せなのだ」と言ったように、他人に対して寛大になれるからこそ、心に余裕が生まれることもあるのではないでしょうか。
そして、寛大さというのは自分に対する予防線でもあると思うのです。
というのは、間違いの許されない、「価値のない」人間は排除する生きづらい社会が出来上がってしまうと、自分が何かのきっかけで能力や可能性を失った時に自分自身が排除される側に回ってしまいますよね。
人生、何があるかわからないものです。
しかも、このような排除の考え方は人間というものをとても狭い視野でしか見ていない、貧しい考え方だと思います。
貧しいというのは、色々な意味で。
心理的に貧しいというのもあるし、人材の価値を活かしきれないという意味で経済的にも貧しいと思います。
人間はいくつになっても、どんな状態でも社会の一員。
「認知症である前に、人なんだ」という言葉が重く響きました。
この本を読むと、他人に優しくなることについて、さらには誰もが生きやすい社会をどうやったら作れるか、考えるきっかけになると思います。