東大生の読書ライフ

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東大生による書評ブログ。

こんな生き方もあるよ:コミュニティでの暮らし

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「『つくる生活』がおもしろい」

牧野篤(2017、さくら舎)

 

こんな人におすすめ:社会に対し閉塞感を感じている方。就活生にも良いかも。

分野:生涯学習、地域創生

難易度:★★★★☆

コメント:語り口は柔らかですが、途中、哲学的な話が出てきてマルクスジャック・ラカンの言説が引用されていました。哲学の素養がない私には理解が難しい部分もありました。

 

筆者情報:

東京大学大学院教育学研究科教授

1960年愛知生まれ。

もともと中国近代教育思想ならびに社会教育・生涯学習が専門だが、それに加え、日本のまちづくりや高齢化・過疎化問題、多世代交流型コミュニティの構築などにも取り組んでいる。

 

印象に残った話:まずは小さく考えてみる

2060年に日本の人口1億人を保つためには、今から毎年30万人以上多く子どもを産んでもらわないといけないそうです。これを日本全国の単位で考えると大変なことに思えるし、実際保育所の拡充など様々な支援を行ってきたものの効果は薄いのが現状です。しかし、これを10万分の1の縮尺にして小さな単位で考えてみると、人口1300万人の自治体で毎年10人子どもが生まれるところを、13人にしたいと言っているのと同じです。狭い範囲で考えれば、3人というのは実現可能な目標に思えるし、その自治体の事情に合わせて様々な手立ても思いつくものです。このように、日本全体で考えると絶望的になってしまうような問題も、コミュニティ単位で考えると解決の糸口が見えることもあるかもしれませんね。

 

まとめ:

タイトルの意味するところが非常に深くて感動しました。最初は、地方創生の人だから活性化した地域を作り上げていくことについて書いてあるのかなぁと思っていましたが、ここでの「つくる」は人と人とのつながり、社会のつながりを作ることでした。

 

都市部への人口流入により人々の帰属意識が揺らぎ、コミュニティが崩壊する中、社会での競争は激化し、年功序列でただ同じ会社で働き続ければ一生安泰という時代でもなくなってきました。

産業構造が多様化し、何が能力として評価されるのかも一概には言えない。しかし人よりも優位に立たなければ競争に負けてしまう、他人を蹴落とさなければという意識だけはある。

その結果、社会全体に閉塞感が漂い「おもしろくない」状況が作られていると牧野さんは言います。

 

コミュニティ、社会から自分を切り離し、自分の生活だけは守ろうとする姿勢に対し、牧野さんは警鐘を鳴らしています。

人間の本質は(ここで哲学的になったのですが)他者との関係を構築することにあるため、現状を打破するためには、他者とのつながりを再評価し、コミュニティを復活させることが必要であると説いています。

 

他者とのつながりを「つくる」ことで、現状を打破し「おもしろい」社会ができる。

これが、牧野さんのメッセージであると理解しました。

 

最後の方は牧野さんが行なった地域おこしについての事例が載っています。心温まる話が多く、「おもしろい」です。

 

この人の他の著書:

著書には「生きることとしての学び」「認められたい欲望と過剰な自分語り」(いずれも東京大学出版会)、「シニア世代の学びと社会」(勁草書房)、「農的な生活がおもしろい」(さくら舎)などがある。

 

個人的に自給自足に興味があるので、「農的な生活がおもしろい」を今度読んでみたいです。